『あなたがた信仰する者たちよ、アッラーを畏れ、(言行の)誠実な者と一緒にいなさい』

(クルアーン第9章119節)




 ナフジュル・バラーガ Nafj Al−Balagahah
   ---イマーム・アリー・イブン・アブー・ターリブの説教、書簡、格言集 ---




説教192 

アミール・アル=ムウミニーンの教友の一人で信仰に熱心なハンマームが
「おお、信者の司令官よ、敬虔な人を見ているように説明してください」と言ったが、
アミール・アル=ムウミニーンはそれに答えないで言った。「おお、ハンマームよ、
アッラーを畏怖して善行しなさい。『本当にアッラーは、主を畏れる者、善い行いをする者と
共におられる。(聖クルアーン16章128節)』のであるから」ハンマームはこの返答に満足せず、
もっと話してほしいと迫った。それでアミール・アル=ムウミニーンはアッラーを称賛し、
聖預言者の祝福を求めた後でこのように語った。 


栄光のアッラーは被造物を御創りになった。創造された者たちの服従も罪を犯すことから安全であることも一切を必要とされずに創造されたのである。アッラーは誰かの犯した罪で害されることがない。誰かに服従されることで益されるということがないからである。彼らの間に生きる糧を分配し、この世での彼らの位置を御授けになった。

したがって神を畏怖する者は卓越した人びとである。彼らの言葉は適切で、身なりは慎ましく、足並みは謙虚である。アッラーが非合法とされたことには目を閉じ、彼らを益する知識に耳を
傾ける。試練の時であっても安楽であるかのようでいる。
各人の(この世の)期間が定められていなかったなら、彼らの心はまばたきほどの瞬間ですら
その体に留まることはなかっただろう。報酬を熱望し、懲罰を恐れるので。
彼らの心には創造主の偉大さがしっかりと居座っており、それ以外のものはすべて彼らの目に小さく映る。従って、彼らはまるで楽園が見えており、その恩恵を享受しているかのようである。まるで地獄が見え、その懲罰に苦しんでいるかのように。

彼らの心は悲嘆にくれ、悪から守られている。痩せこけて、必要なものには乏しく、魂は純潔である。彼らの耐え忍ぶ困難はつかの間のことであるが、その結果として、長い間の安楽を確保する。それはアッラーが彼らのために容易にされた、益となる取引なのである。
この世は彼らに狙いを向けるが、彼らはこの世を狙ったりしなかった。この世は彼らを捕らえたが、彼らは身代金でそれから自身を解放した。
夜間、彼らの足はクルアーンの一部を読みながら直立し、よく判断して朗誦し、それによって
自身を嘆き悲しみ、病を取り除こうとする。楽園を熱望させる節を見つけると、彼らは熱心に
求める。心はそれに強く向かう。まるで目の前にあるように感じて。
地獄を恐怖させる節を見つけると、心の耳を傾け、地獄の音を感じる。それの叫びが耳に届くかのように。背を曲げ、額と手と膝とつま先を地につけてひれ伏し、崇高なるアッラーに救出を請う。昼の間は耐え、学び、高潔で、信心深い。
アッラーへの畏怖が彼らを矢のように細くさせる。病人ではないのに、彼らを見た者は誰もが
病人だと思う。気が狂ってしまったと言う。実際、偉大なる関心事(畏怖)が彼らを狂わせた。
彼らは自分の粗末な善行に満足しない。彼らの偉大な行為を偉大だとは思わない。
常に自己批判し、自分の行為を恐れている。褒められても「わたしは他人より自身をよく知っている。 我が主はわたし自身よりも御存知であられる。
おお、アッラーは彼らの言ったことでわたしを御裁きにはならない。彼らが考えているよりも善い人になさりますように。彼らが知らないわたしの欠点を御赦しになりますように」と言うのである。
彼らの特性は、信仰における精神力、寛容に加えての決意、確信と共にある信心、自制に関しての知識(追求の)熱望、富の節度、信仰における熱心さ、貧窮のときの気品、困難のときの
忍耐強さ、合法なことへの願望、導きに喜びを感じること、貪欲を嫌うことであるのがわかろう。 善行しても畏怖を忘れない。夕暮れにはアッラーに感謝を捧げることを気にかける。
朝になると彼の心配はアッラーを思い出すことである。夜は畏怖で過ぎ、朝は喜びで起き上がる。忘れて夜が過ぎるのを恐れ、受け取った恩恵と慈悲に喜ぶ。好まぬことへの忍耐を自身が拒めば、好むことの要求を自分に許さない。彼の目は永遠に続くものにおかれて冷静である。(現世の)永久に続かぬことからは離れる。知識には忍耐を、発言には行為を注ぎいれる。
彼の望みは簡素で、欠点は少なく、心には畏怖を抱き、精神は満たされており、食事は慎ましく、信仰は安全で、欲望は死んでおり、怒りは抑制されているのを見るだろう。
彼が望むのは神のみである。彼の悪を恐れる必要がない。アッラーを忘れる人びとの中に
彼をみつけたとしても、覚えている人の一人にみなされるが、覚えている人びとの一人であったなら、 忘れる人びとの一人にはみなされない。彼に不正義を犯した者を赦す。彼から略奪する者には与える。 彼に悪行を犯した者にも親切に振る舞う。
不作法な発言からは遠く、発する言葉は情け深く、悪行は存在せず、常に美徳があり、害は
その顔を彼から背ける。災難のときにも威厳があり、困難のときには忍耐強く、安楽のときには感謝する。 嫌いな者には度を越した行為をせず、愛する者のために罪を犯さない。
訴えのあった証拠には真実を認める。任されたこと(保護・管理)を悪用せず、覚えておくべきことは忘れない。他人を蔑称で呼ばず、隣人に危害を加えず、他者の不幸を喜ばず、悪に溶け込まず、公正から去ってしまわない。
無言のときにはその無言で深く悲しんだりせず、笑うときには声をあげない。不当に扱われたときはアッラーの仕打ちがあるまで耐え忍ぶ。自分のことで心を悩ませるのだが、人びとは彼に安心していられる。自分は来世のために困難に身を置くのだが、人びとには彼からは安全であるように感じさせる。彼が他者から自身を引き離すのは禁欲と浄化のためであり、近くにいるときは寛大と情けでそうする。自身を引き離すのは虚栄心やうぬぼれからではなく、近くにいるのは騙したり欺いたりするためではない。

報告によると、ハンマームは気絶して息を引き取った。その後、アミール・アル=ムウミニーンが言った。

 誠に、アッラーにかけて、わたしは彼のことで恐れていた。
それから付け足した。 
受容力のある心には効果的な忠告がこれほどの影響を与えるものなのだ。
誰かが〈注〉彼に言った。
おお、アミール・アル=ムウミニーンよ、それほどの影響を受けないのだがどういうことであろうか? 
アミール・アル=ムウミニーンが返答した。
あなたの上に災いあれ。死には定められた時がある。延ばすことはできない。死の原因は変わらない。よろしいか。二度とそのようなことを口にしてはならぬ。悪魔があなたの舌にのせたことを。



〈注〉これはアブドゥッラー・イブン・アル=カウワーのことで、ハワーリジュ運動の中心人物で、アミール・アル=ムウミニーンの大敵だった。




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