『あなたがた信仰する者たちよ、アッラーを畏れ、(言行の)誠実な者と一緒にいなさい』

(クルアーン第9章119節)




 ナフジュル・バラーガ Nafj Al−Balagahah
   ---イマーム・アリー・イブン・アブー・ターリブの説教、書簡、格言集 ---




説教129 

アブー・ザッル〈注〉がアル=ラバザに追放されたときの説教 


おお、アブー・ザッルよ! あなたはアッラーの御名において怒りを表した。
あなたが怒った、その御方に希望をもて。 人びとはこの世で彼らの満足することのために
あなたを恐れたが、あなたはあなた自身の信仰のために彼らを恐れた。彼らがあなたを恐れるならそうさせておけ。 彼らに関してあなたが恐れることを取り除いて彼らから離れなさい。
あなたに諫止されたことをなんと彼らは貧窮していることか。一方、あなたは彼らがあなたに
拒否したことを何とも思っていない。まもなく、あなたは知るだろう。
明日(審判の日)、獲得するのが誰であるか、羨ましく思うのが誰かを。
誰かに天地が閉じられて、その人がアッラーを恐れたとしても、アッラーはその人のために
御開きになる。魅了されるのは公正のみで、注意をそらさねばならないのは不正である。
彼らが現世で魅了されたものをあなたが受け容れていたなら、彼らはあなたを愛したのだろう。そのことで彼らと分かち合っていれば、彼らはあなたを保護したのだろう。 


〈注〉アブー・ザッル・アル=ギファリーの名前は、ジュンダブ・イブン・ジュナーダといった。
メディーナの東に位置する小さな村、アル=ラバザに住んでいた。
預言者の宣言のことを聞いてメッカに行き、預言者のことを尋ね歩いた。
そして預言者に会うとイスラームに帰依した。
その時、クライシュ族の不信人者にありとあらゆる困難と苦痛を次から次へと与えられても彼は不動であった。 最初にイスラーム帰依したうちの三人目または四人目もしくは五人目だった。
早くに帰依したことに並んで、彼は克己と敬虔さでは極めて高い位置にあったため、預言者はこのように語っていた。

わたしの民の中でアブー・ザッルは、克己と敬虔さにおいてマリヤムの息子イーサーのようである。

ウマルのカリフ時代、アブー・ザッルはシリアに行き、ウスマーンのカリフ時代もそこにとどまった。 彼は土地の人びとに助言と説教をし、預言者の家族の偉大さを人びとに知らせ、正道に
導いた。現在のシリアとジャバル・アーミル(レバノン北部)にシーアの教えが残っているのは、彼の宣教活動の結果であり、その果実の種を撒いたのは彼だった。

シリアの知事ムアーウィヤはアブー・ザッルのこうした行動を好まず、あからさまな批判やウスマーンの不正行為や金儲けを言及するので非情に嫌悪していた。だがムアーウィヤにはどうすることもできなかった。ついに彼はウスマーンに書簡を送り、このままとどまれば彼が民衆を扇動して蜂起するだろうと伝えた。これに対してウスマーンはアブー・ザッルを鞍なしの駱駝に乗せてメディーナに送還するよう返答した。この命令通りにアブー・ザッルはメディーナに送られた。メディーナに到着してからも彼は公正と真実を語ることをやめなかった。
預言者の時代を思い出し、みせかけの王者から遠ざかるように民衆に呼びかけた。
ウスマーンはこれにうろたえて、アブー・ザッルの説教を規制しようとした。

ある日、彼はアブー・ザッルに遣いを送り、「聖預言者がこのように申されたのだと言い歩いていると聞いた。『バヌ・ウマイヤが30人になったとき、彼らはアッラーの町を自分たちの所有地に、アッラーの被造物を彼らの奴隷に、アッラーの教えを彼らの反逆行為の道具にするであろう』と」 アブー・ザッルは預言者がそう言われたのを自分は聞いたと返答した。
ウスマーンは彼が嘘をついていると言い、 アブー・ザッル以外の者に同じ伝承を聞いたことがあるか問いただしたところ、全員が否定した。アブー・ザッルはアミール・アル=ムウミニーンに
問うべきだと言った。そして彼に問うと、アブー・ザッルの言ったことは真実だった。
ウスマーンがこの伝承の証拠を求めると、アミール・アル=ムウミニーンは預言者からこう聞いたと返答した。

天地にはアブー・ザッルよりも誠実に語る人はいない。

ウスマーンは何もできなかった。アブー・ザッルが嘘つきだと言い張れば預言者に対して不正を犯すことになる。彼はひどくうろたえたが、黙っていた。一方、アブー・ザッルは、ムスリムの財産が略奪されているとおおやけに発言するようになり、ウスマーンに会うたびにこの節を朗誦した。

また金や銀を蓄えて、それをアッラーの道のために施さない者もいる。かれらに痛ましい懲罰を告げてやれ。その日、それらの金銀は地獄の火で熱せられて、かれらの額やわき腹や背に、焼印が押されるであろう。「これはあなたがたが自分の魂のために、蓄積したものである。だからあなたがたが蓄積したものを味わえ。」(聖クルアーン9章34‐35節)

ウスマーンは彼に金を約束したが、この自由なる人を彼の金の網にはめて制止することはできず、真実を語る舌を止めることはできなかった。それで彼はついにアブー・ザッルにアル=ラバザへの追放を命じ、メディーナの外に行かせるために預言者に追放されたアル=ハカムの息子であるマルワーンをその任務に遣わせた。このとき、誰もアブー・ザッルと口をきいてはならず、見送りも禁じるとの冷酷な命令を下した。しかし、アミール・アル=ムウミニーン、イマーム・ハサン、イマーム・フセイン、アキール・イブン・アビー・ターリブ、アブドッラー・イブン・ジャーファル、アンマール・イブン・ヤースィルはこの命令をきかないで彼を見送った。上記の言葉はこの時のものである。

アル=ラバザでアブー・ザッルは非常に過酷な生活を強いられた。その地で彼の妻と息子が亡くなり、食べていくのに必要な家畜も死んだ。子供は彼の娘一人が生き残り、共に飢餓と困難を分かち合った。生きる糧がすべて尽きてしまい、食べるものが全くない日々が続いて、娘がアブー・ザッルに「父よ、どれだけこのような日々を続けなければならないのですか。糧を求めてよそに移動するべきです」と言ったので、アブー・ザッルは娘と共に荒野に向かって出発した。そこでは草をみつけることすらできなかった。ついに彼は力尽きて座り込み、砂をかき集めたところに頭を置いて横になった。すぐに彼はあえぎ始め、白目になり、死の苦悶が彼を襲った。

父親の様態に驚いて、娘が「父よ、この広大な荒野で死んでしまわれたら、どうやってわたしは一人で埋葬すればよいのですか」と言うと、アブー・ザッルはこう返答した。「落ち着きなさい。預言者がわたしにこう言われたのだ。わたしはどうしようもない状態で死ぬが、何人かのイラク人がわたしを埋葬してくれる。わたしが死んだら布をかけて、あの道の傍に座っていなさい。商隊が通り過ぎる。彼らに預言者の教友のアブー・ザッルが死んだと言いなさい」彼が死んだ後、
娘は言われた通りに座っていると、しばらくして商隊がやって来た。
その中にはマーリク・イブン・アル=ハーリス・アル=アシュタル・アン=ナファッイー、フジュル・イブン・アブドゥル・タッイ、アルカマ・イブン・カイス・アン=ナファッイー、サッサッアフ・イブン・スフハーン・アル=アブディー、アル=アスワド・イブン・ヤジード・アン・ナファッイーなど全部で14人がいた。アブー・ザッルが虚しく死んでいったことを聞いて驚き悲しんだ。
彼らは商隊を止めて旅を中断し、アブー・ザッルを埋葬した。マーリク・アル=アシュタルが埋葬布を与えた。その布は4000ディナールの価値のある布だった。埋葬の儀式の後で彼らは出発した。ヒジュラ暦32年ズ・ル・ヒッジャ月のことだった。




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