『あなたがた信仰する者たちよ、アッラーを畏れ、(言行の)誠実な者と一緒にいなさい』

(クルアーン第9章119節)




 ナフジュル・バラーガ Nafj Al−Balagahah
   ---イマーム・アリー・イブン・アブー・ターリブの説教、書簡、格言集 ---




説教191 

「アル=フトバ・アル=カーシア(あなどりの説教)」で知られる説教。
(悪魔〈イブリース〉のうぬぼれ、アーダム(彼の上に平安あれ)にひれ伏すのを拒否し、
最初に頑固な行為をして高慢だったこと。悪魔の道を踏まぬように人びとへの警告。)  


アッラーに称賛あれ。栄誉と威厳の衣を纏い、彼らを被造物のためではなく御自身のために
御選びになった御方に。アッラーは他の者に彼らを近づけないようにさせ非合法として創造された。かれは偉大なる御自身のために彼らを選んだ。そして彼らに関してアッラーと対抗する者には災いを浴びせられた。



アッラーの試練とイブリースの高慢


それから、うぬぼれる者と慎み深い者とを区別するために、こうした属性に関して天使を試された。ゆえに、心の中に隠されたことや見えないことを何もかも御存知であられるアッラーは、
このように仰せになった。

あなたの主が、天使たちに、「われは泥から人間を創ろうとしている。」と仰せられた時を思え。「それでわれが、かれ(人間)を形作り、それに霊を吹き込んだならば、あなたがたは伏して
それにサジダしなさい。」そこで天使たちは、皆一斉にサジダしたが、イブリースだけはそうしなかった…… (聖クルアーン38章71節−74節)

彼はうぬぼれていたので自分自身に反抗した。その結果、自分が創造されたことの徳から、
アーダムに対して得意に思い、自分の起源を自慢した。拠って、このアッラーの敵は自慢する者の先導者であり、うぬぼれる者の先駆者である。党派の基盤をつくり、偉大さという長衣に
関してアッラーと争い、高慢という服を着、謙虚さという覆いを取り除いたのは彼である。
いかにしてうぬぼれにはアッラーが彼を低め、高貴なふりをすることには屈辱を与えられか、
あなた方は見ないのか? アッラーはイブリースをこの世から追放し、来世の燃え盛る業火を用意された。

もしもアッラーが眩い光でアーダムを創造し、心はその見栄えのよさに取り乱し、息をのむほど香しく創造するのを望まれたのであれば、そうすることはできた。かれがそうされていたら、
人びとは謙虚に彼に伏していたであろうし、アーダムを通して与えられた天使の試練は容易なものとなっていたことだろう。しかし、栄光のアッラーは、試練で(善悪を)区別させ、彼らからうぬぼれを取り除き、高慢と自賛から引き離すために、被造物が知らない、真の本性を手段に
試そうとされた。

あなた方はアッラーが悪魔によって御試しになったことから教訓を学ばなければならない。
すなわち、アッラーは彼の偉大な行為と奮闘努力を、一瞬のうぬぼれによって無効にさせた。
悪魔は六千年の間―現世の清算なのか来世の清算によるのかはわかっていないが―アッラーを信仰していたのだが。
悪魔の次に、今、似たような不服従でアッラーから安全でいられる者はいるのか? 
安全な者はいない。栄光のアッラーが天使にそうさせなかったというのに、同じことをする人間を楽園に入らせることはできない。天地の住民へのかれの命令は同じである。
アッラーとその被造物である一個人との間には、かれが全世界に非合法とした、望ましくないことを許可させるような友好関係はない。



悪魔に関しての警告


したがって、悪魔がその病であなた方を汚すのではないか、悪魔に呼ばれて逸脱するのではないか、悪魔の騎兵隊が向かって来るのではないかと心配すべきである。
なぜなら、わが命にかけて、悪魔はあなた方に矢を射ったからである。弓をおもいきり構えて、近くであなた方を狙っている。

彼は申し上げた。「主よ、あなたは、わたしを迷わされましたので、わたしは地上でかれらに
(迷いを)好ましく思わせ、必ずかれら凡てを、迷いに陥らせましょう。」(聖クルアーン15章39節)

悪魔は知らない未来についての間違った憶測だけでそう言ったのだったが、うぬぼれの息子、高慢の兄弟、思いあがりと不寛容の騎馬兵が悪魔にそれは真実だと証明し、そのために
あなた方の中の不服従な者が彼に伏し、あなた方に関しての悪魔の貪欲が力を強め、隠れた秘密が明瞭な事実となったときにあなた方を完全に支配し、悪魔の勢力があなた方に向かって行進した。

それから彼らはあなた方を不名誉のくぼみに押し倒し、虐殺の渦に放り込み、あなた方を踏みつけ、槍であなた方の目を突き、首を切り、鼻を引き裂き、手足を折り、用意されている火に
向かってあなた方を綱で引っ張っていく。このように、悪魔はあなた方が公然と対立し行進していく敵以上にあなた方の信仰を妨害し、この世の俗事に関して(悪の)炎を燃やすのである。

したがって、あなた方は悪魔に対抗して全力を尽くさねばならない。
アッラーにかけて、彼はあなた方の起源(アーダム)に対して自分を自慢し、あなた方の地位を疑い、あなた方の血統を軽々しく語ったのだから。悪魔はその軍を率いてあなた方に向かい、あなた方の道にその歩兵を連れてくる。悪魔はあらゆる場所から後を追いかけてきて、すべての指の関節を叩くのである。あなた方はどんな手段でも防衛できず、どんなに決意しても撃退できない。あなた方は不名誉の真っ只中、苦境の競技場、死の広場、苦痛の道にいる。

したがって、あなた方は高慢の火を、心に潜む偏狭の炎を、消さねばならない。
このうぬぼれをムスリムの中に存在させるのは、悪魔の策略、高慢、危害、囁きのみである。
あなた方は心を決めて自身の理性には謙虚になり、自尊心を踏みつけて、思い上がりを肩から振り払いなさい。謙虚さを、あなたと敵である悪魔とその軍勢との間の武器にしなさい。
誠に、悪魔にはあらゆる人びと、兵士、助力者、騎馬兵、歩兵がいる。自分の母親の息子より優れるふりをする彼のようであってはならない。アッラーから与えられた優遇が、自分を偉く思わせるような妬みの感情と、心中で燃え上がる怒りの炎以外にはない彼のようであってはならない。悪魔はアッラーから深い悔恨の念を与えられて、審判の日まですべての殺人者の罪を
背負わせられた後、高慢を自身の鼻に吹き込んだ。



高慢と無知の自慢に対しての警告


用心せよ! あなた方はアッラーに対してあからさまに反抗し、信ずる者に戦いを挑んで地上で反乱を駆り立て、悪を引き起こした。あなた方の高慢を自慢に思ったり、無知を鼻にかけたりすることでは、アッラーを畏れよ! アッラーを畏れよ! 
なぜなら、これは敵対の根源であり、悪魔の仕業だからである。悪魔は過去の人びとを騙してきた。その結果、人びとは悪魔の無知の暗がりと誤った導きのくぼみに落ち、悪魔の駆り立てに服し、悪魔の先導を受け入れた。このことではあらゆる人の心は似通っていた。
何世紀もの時が過ぎて、まったく同じことが起きた。胸をしめつける高慢があった。



高慢な指導者と長老への警告


用心せよ! 自身の偉業を自慢に思ったり、血統を誇ったりする指導者や長老への服従には用心しなさい。彼らはアッラーに責任を投げつけ、アッラーが彼らになされたことでかれを咎め、かれの定めに異議を唱え、かれの恩恵に論争した。
誠に、彼らこそが頑迷の主たる基盤であり、悪事の大黒柱であり、イスラーム以前の、先祖を
自慢する剣である。だから、アッラーを畏れなさい。あなた方へのかれの御好意に対立してはならない。また、あなた方へのかれの恩恵に嫉妬するな。
イスラームを主張する者の汚水を清水と一緒に飲んではならない。健全さを彼らの病と混合させるな。彼らの不正をあなた方の公正な物事の中に入らせてはならない。

彼らは悪行の土台、不服従の内層である。悪魔は彼らに誤りの導きを運ばせ、兵士を使って
攻撃させた。悪魔の語りで解釈し、あなた方の知性を奪い取り、あなた方の目に侵入し、耳に吹き込む。このようにして悪魔はあなた方をその矢の犠牲者にし、悪魔の足跡を踏ませ、悪魔の腕力の源にする。
悪魔がどのようにアッラーの御怒りを買い、また過去の役に立たぬ人びとへの懲罰をもたらしたかの教示を受け取りなさい。彼らが頬を下にして倒れたことから、訓戒を得なさい。
そして災難から保護を求めながら、高慢の危険からアッラーの御加護を請いなさい。



聖預言者の謙虚さ


誠に、もしもアッラーが誰かに自尊心に耽溺するのを許されるのであれば、かれの選んだ預言者と代理人にそうさせていただろう。だが、至高のアッラーは彼らが高慢になるのを嫌い、謙虚さを好まれた。したがって、彼らは自身の頬を大地につけて、顔を砂埃で汚し、信ずる者のために伏し、人びとに屈辱を与えた。アッラーは飢餓で彼らを試し、困難を背負わせ、恐怖で試み、障害で彼らを狼狽させた。
したがって、富と子孫をアッラーの御満悦または御怒りの尺度とみなしてはならない。あなた方は豊かで力を与えられている間の災害と試練の危険に気づいていないのだから。栄光のアッラーはこう仰せになった。

かれらはわれが、財宝と子女でかれらを力付けると考えるのか。われはかれらのために、良いことを急いでいると思うのか。いや、かれらは(試みに)気付かない。(聖クルアーン23章55節−56節)

誠に、栄光のアッラーは、人びとの眼に謙虚に映る、かれに愛された人びとを通じて、自惚れの強い被造物を試される。

ムーサーの息子イムラーンが兄弟ハールーンと共に羊毛の衣服で手に杖を握り、フィルアウンのところへ行ったとき、彼らはフィルアウンが服従した場合は彼の名誉と国の維持を保障したが、フィルアウンは言った。「この二人が我の名誉と国家の持続を保障すると言うのはおかしいと思わぬか。貧しい、卑しい身分の者が。そのようなことを口にするのに、なぜ金の腕輪をしていないのか?」フィルアウンは自分の金や財宝を自慢に思いながらそう言い、羊毛の服を全く価値がないものと考えた。

栄光のアッラーが預言者たちを遣わせたとき、財宝と金の鉱山を開かせ、植物の園で囲み、
空の鳥と大地の家畜を彼らの周囲に集らせようと望まれたなら、かれにはそうすることができた。そうしていたなら、試練はなく、報酬も(来世に関する)吉報もなかったであろう。
(彼の宣教を)受け容れた人びとは、試練の後の報酬を受け取ることはなく、信ずる者は善行の報酬を受けるに値しなかったであろう。そして、このすべての言葉は意味をなさなかっただろう。しかし、栄光のアッラーは預言者たちの決意をゆるぎなくさせ、不安のない、満足で充たされた心と眼を、弱そうにみえる外見と共に御与えになった。眼と耳を苦しませる困窮も一緒に。

もしも預言者の権限が攻撃不可能で、預言者の名誉が汚されることもなく、民衆の首がこちらを向き、馬に鞍をはめることのできる領域を保持できていたとすれば、人びとが教訓を学ぶことは極めて容易で、高慢になるのは極めて困難であっただろう。そうであったなら、人びとは恐怖または好みで信仰を受け入れたことだろう。そして彼らの行為に違いはあっても、意図は皆同じだっただろう。
それゆえに、栄光のアッラーはかれの預言者に人びとが従い、かれの書を受け入れ、かれの御顔の前では謙虚であり続け、かれの命令に服し、誠実に服従する以外にわずかでもそれ以外のことはないものとして御定めになった。試練と苦難は厳しいのだから、報酬はより偉大なはずである。



聖なるカァバ


栄光のアッラーが、アーダムを初めとし、過去の人びとからこの世の最後の人びとのすべてを、益をもたらすでも害をもたらすでもなく、また見も聞きもせぬ石で御試しになっているということを、あなた方は理解しないのか。かれはこのような石で聖なる家を御造りになり、人びとが頼るものとされたのである。地上の山と山の間の、一番細い丘の、最も険しい岩だらけの、乏しい土壌の台地に、それを置かれた。その場所は、起伏の多い山間の、最も細い丘にあり、やわらかい砂でできた平原の、泉の水が乏しく、住民はまばらで、駱駝も馬も牛も羊も繁栄しないところであった。

次にかれはアーダムとその子孫にそれに注意を向けるよう命じられた。こうして、それは、彼らが牧草を求めて移動するときの、また彼らを運ぶ家畜が出会う集合場所の、中心地となり、人の心が、水のない遠い砂漠からも、高地や低地からも、海に点在する島々からも、そこへ急いで向かうようにされたのである。彼らは謙虚に肩を震わせて、かれの聴衆として到達した標語を唱え、足早に行進した。髪は乱れ、顔に砂埃をつけて。彼らは布で背を覆い、髪は切らぬままで、顔の美は台無しだった。偉大なる試練、厳しい苦難、公然の試練、極限の純化として。
アッラーはそれをかれの御慈悲とかれの楽園に近付くための手段とされたのである。

もしも栄光のアッラーが聖なる家とかれの偉大なる印を、農園、小川、柔らかでなだらかな平原、多くの木々、豊富な果実、大勢の人口、密集した住民、黄金の小麦、みずみずしい豊穣の土地、青々と茂った大地、水で濡れた草原、どんどん生育する果樹園、人の多い道の中に置かれていたなら、試練は軽く、報酬の大きさは減っていただろう。
聖なる家を支える土台とそれを建てた石が、緑のエメラルドや赤いルビーで燦然と輝いていたなら、心に疑惑を抱くことは少なく、心の中から悪魔の動きの影響が消え、人びとに恐怖がこみ上がるのを止めていたであろう。
しかしアッラーはさまざまな災難によって被造物を試され、困難を与えて信仰させ、苦痛を味あわせた。そのすべては彼らの心から高慢を取り除き、精神を常に謙虚にさせるためだった。かれの恩恵の扉を開き、かれから御赦しを請う手段を容易にさせるためだった。



反乱と抑圧についての警告


アッラーを畏れよ! アッラーを畏怖せよ!(この世で生じる)反乱の、直接の結果に。
(来世で生じる)重い抑圧によって起こりうる結果に。高慢の悪の結末に。それは悪魔の偉大なる罠、大きな詐欺なのだから。致命的な毒のごとく心に侵入してくる。その毒が無駄になることは全くない。誰かを見落としてしまうこともない。知識のある学識者であろうとぼろを着た貧窮者であろうと見過ごさない。アッラーがその被造物である信ずる者を御守りになるのは、こういったことからなのである。礼拝、喜捨、義務とされた日の断食による苦行をその手段とされた。
彼らの体に平安を与え、彼らの目に畏怖を呼び起こさせ、精神を慎ましくさせ、心に謙虚さを与え、うぬぼれを取り除かせるためである。このすべては、繊細な頬を謙虚に砂埃で汚し、慎ましく身体を伏し、(アッラーの御前で)低くなるために腹が背につくほど引っ込めることによって達成できるのである。
さらに、大地が生み出すあらゆるものを貧窮者に与え、また喜捨の方法で貧困者に与えることによって。

うぬぼれを外に出さぬように抑制し、また高慢の痕跡を制することで、こういった行為の中に
何があるかを見てみよ。わたしが見て気づいたことがある。無知な者を魅了する原因や、
愚か者の心にすがりつく理由がなくて何にでもうぬぼれを感じる者は、この世にあなた方以外にはいないということだ。あなた方ははっきりした理由の見えないことや、根拠のないことで、
うぬぼれを抱くからである。

悪魔に関してであるが、悪魔は「わたしは火から創られたが、かれは泥で創られた」と言い、
自分の起源を理由にアーダムに高慢になり、アーダムの創造を嘲った。
同じように、繁栄する共同体の富裕の者は、自分の富を理由に高慢になる。
アッラーの御言葉にはこうある。

「また、わたしたちは多くの財産と子女があるので、懲罰される(ような)ことはありません。」とも言った。(聖クルアーン34章35節)



魅力ある作法を積極的に身につけること、尊重される地位にあること、
過去から教訓を学ぶことについて


虚栄心を避けることができないなら、その虚栄心は、良い性質、称賛に値する行為、褒められることのためでなければならない。アラビアの高貴な酋長が人を惹き付ける作法、崇高な思考、尊重される地位、良き行為で秀でているように。あなた方もうぬぼれるのなら、称賛に値する習慣でそれを示しなさい。隣人の保護、合意したことの厳守、高潔な人びとへの服従、高慢な者への抗議、他人にみせる寛大さ、反乱の放棄、流血から遠ざかること、人びとに対しての正義、怒りの抑制、地上の揉め事を避けることによって。
また、彼らの悪行のために自身に降りかかる災難を恐れなさい。良い状態の時にも悪い状態の時にも、彼らの身の上に起こったことを忘れるな。彼らのようにならぬよう警戒しなさい。

この人たちの状態をよく考慮した後は、彼らの敵が距離を置いた理由に、また彼らの上に安全が広がり地位を高貴にさせたことのすべてに、富裕者が彼らに屈服した理由を手段にして、
卓越が彼らの綱とつながる結果となるように、あなた方自身を結びつけるようにしなさい。
こういったことが分裂を避け、統一を守り、団結させ、互いを忠告させる。あなた方は背骨を折るようなことや、力を弱めてしまうことをすべて避けなさい。心に憎悪を抱いたり、(互いの協力に)背を向けたり、相互の援助から手を引っ込めてはならない。

すでに去ってしまった信ずる者の状態を考えてみよ。
彼らはなんという試練と苦難の中に置かれていたことか! 
全世界の、最も道に迷った状態の、最も重荷を背負わされた人びとではなかったのか? 
フィルアウンは彼らを奴隷にした。彼らは最悪の処刑を受け、酷い苦しみを味わった。
この破壊的な不名誉と過酷な服従の状態が続いた。栄光のアッラーへの愛のために困難に
耐え、かれへの畏怖から苦難に耐えていることにアッラーが御気づきになるまで、彼らには
逃げ道も保護される方法も全くないままであった。かれは試練の苦難からの逃げ道を彼らに
御与えになった。それで彼らの恥辱は栄誉に、恐怖は安全に変えられた。
その結果、彼らは支配する王となり、顕著な指導者となった。そして彼らへのアッラーの御好意が限界に達すると、彼ら自身の望みには到達しなかった。

彼らの一団が団結し、見解が一致し、心に節度をもち、手は互いの助力に使われ、剣が互いの援助を意図し、目は鋭く、彼らの目的が同じだった時に、彼らがどのようであったかを考えてみよ。彼らは地上の一角のマスターとなり、全世界の首を支配していたのではなかったか? 
分裂で彼らが圧倒され、統一がくずれ、彼らの言葉と心に相違が生じたときの、終わり頃の彼らがどうであったかも考えてみられよ。 彼らは異なる集団に分裂してあちこちで戦った。
それでアッラーは彼らの装いであった名誉を取り上げ、かれの恩恵で生まれた繁栄を彼らから奪われた。彼らの物語のみが教訓を学ぶ者のための手引きとしてあなた方に残ったのである。

イスマーイールの子孫、イサークの子孫、イスラエルの子孫の宿命から教訓を学び取れ。
彼らの事情がいかに似ていたか。彼らの例がいかに類似していたか。
彼らの不統一と分裂の詳細については、ペルシャのキスラースとローマのシーザーが征服者になった時代を考えてみよ。この征服者は彼らの土地の牧草から、イラクの河から、この世の肥沃から、彼らをとげのある林へ、熱風の道へ、暮しの困難へ追い出した。こうして征服者は彼らをただの駱駝の番人にさせた。彼らの馬はこの世で最も酷く、住む所は最も干ばつにやられやすい場所だった。彼らには保護を求めにいく声はひとつもなく、信頼できる力をもつ、愛情の日よけ全くなかったのである。

彼らの状態は嘆くことばかりだった。彼らの手はあちこちに散った。大多数が分裂していた。
大変な苦痛の中にいた。無知の重なった層の下にいた。自分の娘を生き埋めにし、偶像を
崇拝し、血縁関係を無視し、略奪を行っていた。

では、彼らに授かったさまざまなアッラーの恩恵を見てみよ。
アッラーは彼らの許へ預言者を遣わせ、忠誠を誓わせ、預言者の呼びかけで彼らを統一させた。彼らの上にどれほど恩恵の翼が広げられたかを見よ。祝福の小川が流れ、共同体全体が祝福の繁栄に包まれたのを。その結果、彼らはその恩恵の下に埋もれ、欲望の暮しを歓楽した。彼らは強力な支配者の保護下で管理され、この状況が彼らに圧倒的な特権を与えて、強国の保護下で何もかもが容易になった。世界の支配者となり、地上のあちこちで王者となった。以前の征服者を支配するようになり、彼らに命令を下していた人たちに、今度は彼らが命令するようになった。彼らは極めて強力で、槍を試す必要がなく、武器は何の欠陥もなかった。



民衆を非難


用心せよ! 服従の縄を離したあなた方の手が震えている。イスラーム以前のやり方に頼る
ことで、あなた方は神聖な砦を壊してしまった。栄光のアッラーの情愛の法典によって統一させ、彼らがその日よけの下を隠れ場にして歩くことができたのは、かれの偉大なる祝福であった。この祝福を全世界で理解できる者はいない。なぜなら、それはどんな価値あるものよりも
価値があり、どんな富よりも偉大だからである。
あなた方は(イスラームに)移住した後で再びアラブの放牧民の地位に戻ってしまい、一度は
統一した後で、異なる党に分かれてしまったということを知っておかねばならない。
あなた方はイスラームの名前のほかには何も持たない。見せびらかす以外に何も信じてはいない。あなた方はまるでイスラームという顔に投げつけ、栄誉を害し、アッラーが地上の神聖なる信託者として、人びとの平安の源泉として、あなた方に御与えになった(兄弟の)誓約を破るかのように、「火獄、その通り。だが、恥じる場所ではない」と言う。あなた方がイスラーム以外のものに傾くなら、不信心者があなた方を敵にして戦うであろうことを、心しておきなさい。
そのとき、天使ジブリールもミカイルも、ムハージリーンもアンサールも、あなた方を助けないだろう。アッラーがあなた方のために解決されるまで、あるのは剣の衝突のみとなる。

誠に、アッラーの御怒りと懲罰と苦難の日々が起る前に、あなた方には例がある。
したがって、かれの御光を怒りに変えてはならない。かれの猛烈な御怒りを予期しないでかれの約束を軽視してはならない。懲罰を無視してはならない。他者に善行を勧め、悪行を慎むよう呼びかけなかったことを除けば、栄光のアッラーは過去の時代を呪われなかったからである。実際にアッラーが呪ったのは、罪を犯した愚者と、他者を悪から遠のかせるのをやめてしまった賢者だった。用心せよ! あなた方はイスラームの足枷を壊して、その限度を超え、命令を破壊してしまった。



イスラームにおいてのアミール・アル=ムウミニーンの高い地位とすばらしい行為


用心せよ! 誠に、アッラーは、反乱者、誓約を破る者、地上で災難を引き起こす者たちと戦うようにわたしに命じられた。誓約を破る者については、わたしは彼らと戦った。真実を逸脱させる者については、わたしは聖戦を呼びかけた。信仰を捨てた者については、わたしは彼らを厳しく退けた。悪魔の落とし穴については、悪魔もわたしとやり合わなければならなかった。悪魔は大声で泣き叫び、悪魔の叫び声と胸の震えが聞こえた。反乱者はほんの僅かが残っただけであった。アッラーがわたしにもう一つの機会を御許しになるならば、市の郊外にわずかの残骸が残るまで、わたしは彼らを消滅させよう。

わたしがまだ少年の頃、アラビアで有名だった男たちの胸を低くさせ、ラビッアとムダル部族の角の先をへし折った。(部族長を負かせた)確かに、あなた方はわたしがアッラーの預言者―かれとその家族の上に神の祝福と平安あれ―と血縁関係が近いことも、彼と特別な関係にあったことも知っている。まだ幼かったわたしを世話してくださった。彼の胸に抱れて、寝床で一緒に寝ていた。彼の体のすぐ傍で彼の匂いをかいでいた。彼は自分の口で噛み砕いてからわたしに食べさせてくれた。彼はわたしが嘘をつくのを見たことがなく、またわたしの行為に弱いところを見られたことはなかった。

彼が離乳した時から、アッラーは彼に偉大な天使を付かせ、高貴な特質と日夜の善行の道を歩ませた。その頃、わたしは駱駝の子が母駱駝の足跡を従うように彼の後を従った。
毎日、彼はわたしに彼の高貴な特質のいくつかを軍旗として示され、わたしに従うように命じられた。毎年、彼がヒラーの洞窟に御篭りになるのをわたしは見ていたが、彼がそうしておられるのを見た者はほかにはいなかった。その頃、神の使徒―彼とその家族の上に神の祝福と平安あれ―とハディージャの家を除いて、イスラームは存在していなかった。わたしは彼らに次いで三番目だった。わたしは聖なる啓示の輝きを見、預言者の匂いをかいでいたものである。

神の使徒―彼の上に神の祝福と平安あれ―に啓示が下ったとき、わたしは悪魔のうなり声を聞いた。「神の使徒よ、この声は何ですか?」わたしが尋ねると、彼はこう返答された。「これは信仰される望みを完全に失った悪魔の声である。おお、アリーよ、あなたはわたしが見るものをすべて見、わたしが聞くものをすべて聞く。だがあなたは預言者ではない。あなたはわたしの代理人である。確かに、あなたは美徳の道にいる」

クライシュ族の一団が彼の許にやって来て、「おお、ムハンマドよ、あなたは先祖も自分の一族もやらなかった重大な宣言をした。一つだけ質問するので、それに返答できたら、我々もあなたが預言者であり神の使徒であることを信じよう。だが返答できなければ、あなたが魔術師で嘘つきであることを知るだろう」と言ったとき、わたしは彼と一緒にいた。

神の使徒は言った。「何を問われるのか?」彼らは言った。「この木に動けと命じてみられよ。
根から一緒に動かし、あなたの前で止まるよう命じてみよ」預言者は言った。
「誠に、アッラーはすべてのことに対して偉力を御持ちであられる。あなた方のためにアッラーがそうされたなら、あなた方は真実を証言して信じるのか?」彼らは「はい」と言った。
それから彼は言った。「あなた方が望むものを示そう。だが、あなた方は善に伏すことをせず、あなた方の中には穴に落ちる者がいる。(わたしに反抗して)党をつくる者が」そして彼は言った。「おお、木よ、アッラーと審判の日を信じるなら、そしてわたしがアッラーの預言者であることを知っているなら、アッラーの御許しがあれば、根元からこちらに動いてわたしの前に立て」真理と共に預言者を遣わされた御方にかけて。その木は確かに、猛烈な音をたてて根ごと動いた。もう少しで神の使徒に当たってしまうところだった。この後、彼らは信じられず、「では、この半分の木がもう半分の元に戻るように命じてみなさい」と反抗して言った。預言者が命じると、それは元に戻った。その時、わたしは言った。「おお、神の使徒よ、わたしはあなたを信じた最初の者です。今、その木が至大なるアッラーの命令で動いたのを認めます。あなたが預言者であることを誓い、あなたの崇高な御言葉を証言します」すると全員が叫んだ。「いや、彼は魔術師、嘘つきである。これは見事な魔術なのだ。彼は魔術に長けている。(わたしを指差して)あなたの証言者になれるのはこのような者しかいない」

誠に、わたしはアッラーに関することでは誰かの非難を気にせぬ一団に属する。
彼らの表情は誠実な人の表情、言葉は高潔な人の言葉である。
夜間は(アッラーの信仰のために)目を覚まし、日中は(導きの)灯台にしたがう。
彼らはクルアーンの綱をしっかりと握り、アッラーとその預言者の教えを復活させる。
自慢したり自尊心に満足したりせず、悪用したり、悪事を起こしたりしない。
彼らの心は楽園にあり、身体は善行で忙しい。




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