『あなたがた信仰する者たちよ、アッラーを畏れ、(言行の)誠実な者と一緒にいなさい』

(クルアーン第9章119節)




 ナフジュル・バラーガ Nafj Al−Balagahah
   ---イマーム・アリー・イブン・アブー・ターリブの説教、書簡、格言集 ---




説教82 

アル=ガッラーと呼ばれる最も素晴らしい説教のひとつ。 



アッラーに称賛あれ。すべての上にある御方、かれの恩恵を通じて(被造物の)近くに在られる御方に。かれはあらゆる報酬と識別を与え、あらゆる災難と困難を払い除ける御方。限りない御慈悲とおびただしい恩恵にかれを称賛する。

すべての初めであり明瞭なるかれをわたしは信じる。近くに在られ、指針で在られる御方に導きを求める。偉大かつ統治者であられる御方に援助を求める。惜しみなく与え、真の助力者である御方に依存する。ムハンマド(かれとその家族の上に神の祝福あれ)はかれの僕であり預言者であることを証言する。かれはその命令を執行するために、弁解を不要にさせ、また(永遠の懲罰の)警告を示すために、ムハンマドを御遣わせになった。




敬虔さをもつように人びとへ命令


おお、アッラーの被造物よ、あなた方への証明を示し、あなた方の生命期間を御定めになったアッラーを畏怖するよう忠告する。かれはあなた方に身を隠す衣を与え、あなた方の糧をばら撒かれた。かれはあなた方をかれの智で御囲みになった。報酬を御定めになった。あなた方の上に恩恵と莫大な贈物を御与えになった。遠大な議論であなた方に警告され、あなた方を勘定なさった。かれはあなた方がこの試練の場所、導きの家で生きる年数を御定めになった。




現世についての警告


あなた方はこの世で試され、それについて問われる。誠に、この世は汚れた水が撒き散らされ、泥水が飲料水となる場である。

その外見は魅力的で、中身は破壊的(有害)である。それは抹消される幻想、消滅する影、
曲がった柱である。それを蔑む者が好み始め、それに精通せぬ者が満足するとき、彼らは舞い上がり、(悦びに)足を下ろし、その罠にはまり、それの矢の的となり、首に死の綱が巻きついて、狭い墓、恐怖の棲家へ連れて行かれ、留まる場所と行為の償いが明らかにされる。
これが世代から世代へと続く。死は、彼らがばらばらに切断されるのを食い止めない。
生存者が罪を犯すことから遠ざけることもない。




死と復活


彼らは互いに競い合い、一団となって最後の目的地、死の集合場所へ進んでいく。
そこでは物事が終わり、世界は終焉し、復活が接近する。アッラーは墓場の隅から、鳥の巣から、猛獣のねぐらから、死の中央から、彼らを連れ出す。彼らはかれの命令に急ぎ、定められた最後の場所へ、静かに整列して一団ごとに走っていく。彼らはアッラーの視界の中にあり、彼らが呼ばれるのが聞こえる。

彼らは無力という服を着、服従と侮辱の覆いを被っている。(この時)考案は消え、欲望は断たれ、心は静かに沈み、声はしぼみ、汗で喉がつまり、恐怖が増し、最後の審判、報酬の裁定、目もくらむ懲罰、償いの返済を告げるすさまじい声に耳が反応する。




生命の限界


人びとはかれの偉力の証明として創造され、権限のもとに彼らを齎し、悲痛のうちに死ぬように創られ、屑に変ってしまう墓場の中に置かれる。その後、一人ずつが蘇えり、各人は別々に報酬が与えられ、行為を問われる。彼らは救済を求める時間を許されていた。正道を示されていた。生きて恩恵を求めることを許されていた。疑惑の暗黒は取り除かれていた。そして審判の日の、競走の仕度をするために、この生命ある期間を訓練の場として、自由の身として放たれていた。思慮深く目的を探して、恩恵の確保に要する時間を得て、次の世界の居場所を確保するために。




敬虔さなくして幸福はない


こうした説明と効果的な警告はなんと適確であろうか。純粋な心で耳をそばだて、確かな視野で、鋭敏さをもって理解されるのであれば。良い忠告に耳を傾けて屈する者のようにアッラーを畏怖せよ。そのような者は罪を犯せばそれを認める。恐怖を感じれば高潔な行為をする。懸念したら善行に急ぐ。信じたら有徳の行いをする。(現世の出来事で)教訓が与えられると学び取る。(悪を)忌み嫌うよう求められたら遠ざかる。アッラーの呼びかけに応じたときはアッラーにすがる。(悪に)逆戻りしたときは悔悟し、ついて行けば危うく真似をするところだった。(正道を)示されたなら理解する。

このような者は真理の追究に忙しく、この世の悪を追い払うために逃げる。自身のために善行の準備をして、内なる自分を純化させ、来世のために構え、出発の日の仕度ができており、その旅と必要条件と場所が視野にあり、来世の住処のための先送りができている。おお、アッラーの被造物よ、アッラーがあなた方を創造された理由を考慮してアッラーを畏怖せよ。かれの忠告があるのだから、かれを畏れよ。あなた方に約束されたことに自身が値するようになれ。
かれの約束が真実であることを確信して。審判の日を恐れて。




同じ説教より
アッラーの恩恵を人びとに指摘


かれは重要なことを守るためにあなた方の耳を創り、盲目の代りに眼を創り、たくさんの部位から成る体を御創りになった。体の曲線は年齢と容姿に見合うように、そして自身を維持できる体と、糧を求めるのに忙しい心を御創りになり、これに加えて、ほかの大きな恩恵、好意的な報酬、安全の砦を創造された。かれはあなた方に知らされていない年齢(寿命)を御定めになった。あなた方への教示のために、過去の人びとの遺骸を保った。この人びとはすっかり楽しみ、全く制約がなかった。彼らが欲望を満たす前に、死の手が彼らを欲望から引き離し、死が彼らを圧倒した。彼らが健康体であった間は自身に与えようとせず、若さで宙ぶらりんのときには教訓を学ばなかった。

この人たちは若い時に腰の曲がった老年を待っていたのだろうか? 健康体を満悦している人びとは病になるのを待っているのだろうか? 生きている人びとは死の時間を心待ちにしているのだろうか? 旅立ちの時が近づき、旅がすぐそこまで来て悲嘆と苦しみに悩まされ、悲しみに暮れ、唾を詰まらせるとき、縁者や友の助けを呼んで寝台で横腹の位置を変える時が来る。その時、近くにいる者が死を止められるだろうか? 喪に服する女が役に立つのか? それどころか墓場に置き去りにされ、狭い隅に閉じ込められる。

肌は体中に穴が開き、肉は苦悩で破壊する。嵐が彼の痕跡を取り除き、災難が彼の印すら消し取ってしまう。肉体は痩せ枯れ、骨は腐る。魂は罪の重さで苛まされ、未知のことを意識するようになる。だが、もう善行を加えることも悪行の罪滅ぼしをすることもできない。あなた方はこのような死人の息子、父、兄弟、縁者ではないのか? 彼らの足跡に従わず、彼らの道を通り過ぎるのではないのか? しかし、心はまだ動こうとせず、導きを顧みず、過ちの道を進み続ける。まるで忠告が他者のためにあるという風に。正道が現世の益の蓄えであるかのように。




審判の日の用意


あなた方は(シラートの)道を通過せねばならないことを知れ。そこでは足がぐらついて滑り、一歩一歩が恐ろしく危険である。おお、アッラーの被造物よ、賢者のようにアッラーを畏れなさい。賢者は来世を思うと他のことから遠のき、(アッラーへの)畏怖で体は不安と苦痛を煩い、夜の礼拝がわずかな睡眠から目覚めさせる。(永遠の報酬の)希望で日中は喉が渇き、禁欲が欲望を制し、アッラーを忘れないでいるために舌が常に動いている。危険より先に心に抱くのは畏れである。明確な道を好み、公正でない道を避ける。目的を達成するために最短距離を行く。思考が願望でよじれることがなく、不明瞭が盲目にさせることがない。吉報の喜びと(永遠の恩恵の)満足のために、深い眠りを享受して一日を幸福に過ごす。

彼は称賛される作法でこの世の通路を通る。現世には美徳をもって到達する。(悪徳を)恐れて徳行に急ぐ。(この世の)短い時間から急いで退く。永遠の徳を求めることに自身を注ぎ、悪から逃げ去る。今日の間に明日を心に留め、未来から目を逸らさない。誠に天国は最高の報酬であり成就である。地獄は妥当な懲罰であり苦しみである。アッラーは最良の援助者であり(正当な)復讐者であられる。クルアーンは最高の道理であり抗論である。




悪魔についての警告


あなた方にアッラーを畏れるよう求める。アッラーは警告したことに弁解の余地を残さず、正道に関する道理を余すところなく示された。心に忍び込み、こっそりと耳元で囁き、破滅をもたらし、偽りの約束をして、誤った印象を与え続ける敵について、アッラーはあなた方に警告された。敵は罪悪を魅力的な形で示し、重大な罪でさえも光として示す。仲間を騙して誓約を尽きさせると、善として示されたことのあら探しを始め、光として示したことを真剣にとらえ、安全だと示されたことに脅かされる。




同じ説教より
人間の創造に関して


さもなければ、人間をみよ。アッラーは暗い子宮と精液のあふれ出るところの重なった幕から無形の血塊を創り、それが胎児から子供になり、最後に成長した人間となるよう創造された。その人間に、身の回りから教訓を学んで理解し、訓戒に従い、悪を慎むために、記憶力、話すための舌、見るための眼、心を与えた。

人間は正常に発育して骨組みが平均に発達すると、虚栄心を抱くようになりまごついた。とめどもない欲望を引っ張り出し、現世の快楽と浅ましい目的を満たすことに没頭した。害悪を恐れることも不安にかられることもない。悪徳に夢中のままで死んだ。はかない命をくだらない目的のために費やし、報酬を獲得することもいかなる義務を果たすこともなかった。まだ楽しんでいる間に致命的な病に圧倒されて困惑する。悲嘆の苦痛、悔恨の痛み、病で眠れぬ夜を過ごし、真の兄弟、愛情あふれる父親、むせび泣く母親、泣き叫ぶ姉妹の前で、狂ったような不安を抱き、ただならぬ無感覚に陥り、恐怖に泣き叫び、痛みにあえぎ、窒息の苦痛と死苦を味わった。

この後、埋葬布に包まれた。無言のまま他者に完全におとなしく従って。それから、苦痛に踏み潰され、病で痩せこけた状態で板の上に置かれた。若者の一団と兄弟の助けで孤独の家に運ばれる。そこですべての参列者から切り離される。それから付き添った人びとが立ち去り、彼のためにむせび泣いていた人びとは戻って行った。その後、彼は自分の墓の中で身のすくむような質問と理解できない尋問に座らされる。その場所の大いなる災難は窮境であり、永遠の火獄と強烈な炎の地獄への入口である。休息の時間はなく、安心のすき間もない。執り成す力もなく、安堵の死はない。苦痛を忘れさせてくれる睡眠もない。その代わりに複数の死と途絶えることのない懲罰の下に横たわる。我々はアッラーに御加護を求める。




死者から学ぶべき教訓


おお、アッラーの被造物よ! 長生きを許され、恩恵を享受した者たちはどこか? 彼らは教えられ、学んだ。 時間を与えられ、無駄に過ごした。健康を維持されたが義務を忘れた。長い期間の生命を与えられ、寛大に授かり、悲痛の懲罰を警告され、偉大な報酬を約束された。あなた方は破滅に導く罪とアッラーの御怒りを誘う悪徳を避けなさい。

おお、眼と耳と健康と富を持つ人びとよ! 保護される場所、安全な避難所、安息の地はあるのか? 逃げたり(この世に)舞い戻ったりできるのか? それができないのであれば、「どうしてあなた方は背き去るのか?」(クルアーン6章95節、10章34節、35章3節、40章62節)そして回避するのか? 一体何に惑わされているのか? 誠に、この地上であなた方全員に分配されているのは、あなた方の頬に砂がかぶさって横たわるときの、自分の身丈に等しい一区画の土地のみである。行為するのに適切な時は、今である。

おお、アッラーの被造物よ、首は縄から放たれて精神も解放されているのだから、今、あなた方には導きを求める時間がある。あなた方の体は自由だ。集まって整列できる。残りの人生はあなた方の前にある。あなた方には意思で行為する機会がある。悔悟の機会と平安な状態がある。だが、苦しい状態、恐怖、衰弱で圧倒される前に行為しなければならない。待ち受ける死が接近する前に。偉力の全能主に捕らえられる前に。


サイード・アル=ラディの言葉
アミール・アル=ムウミニーンがこの説教をしたときに人びとは震え始め、涙を流し、肝を冷やしたと伝えられている。この説教は「輝かしい説教」(アル=フトバトゥル・ガッラー)とも呼ばれている。




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