『あなたがた信仰する者たちよ、アッラーを畏れ、(言行の)誠実な者と一緒にいなさい』

(クルアーン第9章119節)




 ナフジュル・バラーガ Nafj Al−Balagahah
   ---イマーム・アリー・イブン・アブー・ターリブの説教、書簡、格言集 ---




アミール・アル=ムウミニーン・アリー・イブン・アビー・ターリブの文書、
敵に宛てた書簡、知事に宛てた書簡、役人の任命書、家族と教友への指示


書簡53 

ムハンマド・イブン・アビー・バクルの地位が不安定になり、アミール・アル=ムウミニーンが
エジプトおよび周辺地域の知事としてマーリク・アル=アシュタル・アン・ナファッイを任命したときの手紙。最も長い書簡で、最高の言葉が記録されている。 


慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。

本書簡は、マーリク・イブン・アル=ハーリス・アル=アシュタルのエジプト知事任命にあたり、地税の徴税、敵との戦い、人民の現状改善、領土発展に関して、神の僕、信者の司令官アリーからの指示である。

アッラーを畏怖し、(何よりも)かれに服従し、神の書に示された、義務および推奨に従うよう命じる。この指示に従う以外で至福を得られる者はいない。惨めなことを否定して離れる者以外は打ち勝つことはできない。心と手と舌で栄光のアッラーを援助するよう命じる。崇高なるアッラーは、かれを助ける者を助け、かれを支える者を加護すると約束された。

心の情念を休ませ、強まったときには抑制しなさい。神の御慈悲を除いて、心は悪を煽るものである。



知事の資格とその責任


マーリクよ、あなたが派遣される領土ではかつて正義と不正義の政府が存在していたことを知りなさい。人民は、かつてあなた自身が目の前の統治者を見ていたような眼で、あなたの振る舞いを見、かつてあなた自身が統治者について批判していたように、あなたのことを批判するであろう。誠に、公正さはアッラーがその僕の舌を通過させることによってのみわかるものである。従って、あなたの最善の徴収とは善行の徴収である。だから欲望を抑制し、非合法なことから魂を守りなさい。心の抑制とは、心が好むことと嫌うことの中立に留まることを意味する。

人民には慈悲と慈愛と思いやりの心を持て。彼らはあなたの信仰の兄弟か、被造物としてあなたと平等なのである。むさぼり食う野獣のごとく、人民を格好の餌食のようにみなしてはならない。彼らは無意識に過ちを犯したり、欠如に圧されたり(負けたり)、故意もしくは誤って悪事を犯すことがあるが、あなたが神の御赦しを求めるのと同じように彼らのことを赦してやれ。あなたは彼らの上に立つ。あなたを任命した人はあなたの上に立つ。そして、あなたを任命した人の上にはアッラーが在られる。アッラーはあなたが人民の要求を満たすよう望まれ、人民を通してあなたのことを試しておられるのだ。

あなたにはアッラーの天罰に対抗できる力はなく、かれに御赦しと御慈悲を施させる力もない。だからかれに敵対するような羽目に自身を陥れてはならない。許してやるのを悔やんだり、処罰を下すのを楽しんだりしてはならない。より良い方法がみつかるなら、衝動で行動するな。「支配権を与えられたのはわたしだ。わたしが命令を下す。わたしに服従しろ」などと絶対に言ってはならない。誠に、それは心の腐敗、信仰の衰弱であり、破滅に近づかせる。あなたの権力がうぬぼれと傲慢を引き起こすなら、偉大なるアッラーの支配力と、それに対して何の力も及ばぬことを熟考しなさい。そうすれば、反抗心を抑え、暴挙を抑制し、残った理性を取り戻すことができるだろう。

途方もないアッラーの偉大さとかれの権限を、自分の権力と比べて考えないよう注意しなさい。アッラーは暴君の地位を落としめ、高慢な指導者に屈辱を御与えになる。

正義はアッラーに対してなされるものである。人民、あなたの親族、配下の中であなたが好む者への正義はあなたが担っている。そうせぬときは不正を犯しているのだ。アッラーの僕に不正を犯す者は、かれの僕はいうまでもなくアッラーを、敵にまわしているのである。アッラーと争う者の議論はかれが無効にされる。そのような行いをやめるまで、また、かれの御赦しを請うまではかれの敵であり続ける。アッラーは被抑圧者の求めに耳を傾けられるので、不正行為の継続ほど、アッラーの祝福を取り除き、またかれが急いで報復なさるような事態を招く行為はない。不正行為をする者をアッラーは常に見張っておられる。



統治は包括的に人民のためになされるもの


最も大切な諸事は、正当性においては中道を、公正さにおいては最も包括的に、人民の満足に関しては最大の理解力をもって臨め。人民が不同意であれば寵臣の同意は無効である。寵臣が不同意でも民衆の同意のためには許される。支配者が安心なときに寵臣ほど厄介で、試練の時に助けにならない配下はいない。寵臣ほど公平を嫌い、要求に執拗で、与えられても(贈与を)感謝せず、支配者が寵愛(好意)を引っ込めるとなかなか許さず、災難時に忍耐に欠ける者はいない。一方、共同体の一般の人々には、信仰の支持、ムスリムの団結、敵に直面したときの準備がある。だから、あなたの情愛を彼らに注ぎなさい。

人の過ちを探す者はあなたを誰よりも憎む者であるから、そのような者は一番遠くに置きなさい。人には過ちがつきものである。統治者は誰よりも人の過ちを暴かぬようにしなさい。見えることだけを是正(救済)するのがあなたの義務であるから、あなたに隠されたことは暴露するな。あなたに見えぬことはアッラーが判断なさる。あなたの可能な範囲で欠点を覆いなさい。あなたが配下から覆いをしておきたいことは神がそうなさる。敵意の結び目を解き、その原因を見分けるように。あなたの座に関係ないことはすべて無視しなさい。悪口を言う者は、どんなに誠実な助言者にみえても欺くので、すぐに信じてはならない。



助言者について


寛容からあなたを遠ざけ、貧窮を約束するような欲深い者から助言を求めてはならない。
あなたの諸事を弱めるかもしれぬ臆病者や、抑圧をさも公平なことのように飾り立て、欲望を貪るような貪欲な者からも助言を求めてはならない。欲張り、臆病、貪欲は、アッラーを信じない者に共通した性質である。

誠に、最悪の高官は、あなた以前の悪しき支配者と罪を分かち合った人々である。彼らを従者にしないように。彼らは罪人の援助者、悪事を行う者の兄弟である。彼らのように発想できて印象的な人々で犯罪に手を貸さなかった人々の中から、代わりになる最良の人はみつかるだろう。そのような人々なら、あなたの重荷は軽くなる。また良き援助者としてあなたに共感する傾向があるので、あなた以外と親密にはならない。従って、公私ともに特別な教友となる人をその中から選びなさい。

彼らの中で真実を苦痛として語る者、あなたの活動を一番助けようとしない者は、友としてアッラーは御好みにならない。だが、このような者たちは支配者を喜ばせる。敬虔で誠実な人を維持しなさい。彼らが必要以上にあなたのことを称賛し、また、あなたが行為していないことを称賛してあなたを喜ばせても、それに慣れてはならない。むやみに称讃されると高慢になり、うぬぼれやすくなるものである。

善行する者と悪行する者を同地位に置くな。さもなければ、前者は善行をひかえるようになり、後者は悪行が習慣になってしまう。その人が自身に値させたことを彼ら一人ひとりに値させなさい。人民の重荷を軽くさせ、能力外のことを強制せず、親切に扱うことほど、統治者が人民を信頼する上で役立つことはない。彼らへの信頼が確信できるような状況を実現させなさい。信頼はあなたの長く続く試練を助ける。信頼に値する人とは、試練を与えたときに良く行動できる人である。信頼に値せぬ人とは、試練を与えたときにうまく行動できない人である。

この共同体の指導者たちが実践してきた適切な慣習(スンナ)を通して、調和が強化されて民は発展してきたのである。そのスンナを廃止させてはならない。過去のスンナを少しでも害するような新たなスンナを作り出してはならない。作った人が報われてはならない。スンナを廃止させた責任はあなたが担うのである。土地の発展の強化と、以前の人々の、堅実さの継続が確立したことに関しては、知識の持ち主(ウラマー)からよく学び、また賢者(フカマー)とよく会話せよ。



人民の種類


人民にはさまざまな種類があり、一人で正しく在り、また他者に依存しない者など一人も存在しないことを知れ。分類すると、神の兵士、民衆と首長のための長官、裁判官、法と秩序に従事する役人、庇護民およびムスリムのジズヤ(人頭税)または地税の納税者、商人および職人、社会の底辺に生きる貧窮者と悲惨な境遇の人々。神の書と預言者―彼とその家族に神の祝福と平安あれ―のスンナによって、アッラーはこのように分類された各人への分配を定め、それにふさわしい義務の行為を確立し、我々によって維持され、これをかれとの契約とされた。

神に任された兵士は、人民の要塞、統治者の装飾、信仰の力、安全の手段である。民を支えるものは兵士である。その兵士を支えるのが、神が彼らのために確保した地税である。地税によって武力が備わり、必要を充たす。兵士と納税者を支えるのは、裁判官、長官、役人である。契約書を作成し、収益を集め、公私の諸事を任されるからである。

このすべての人々を支えるのは、物品を集め、市場を整える、商人と職人である。彼らは自身の手で人々に入手できない物品を集めて必要とする人々に供給する。それから、社会の底辺におかれた貧窮者があり、助ける権利と助けられる権利を有する。各グループはアッラーの御名において分配される。各グループは統治者に正当な分配を主張する。だが、統治者が確固たる精神で奮闘し、神の御助けを求め、真実が要求することに自身を一致させ、楽な時にも厄介な時にも忍耐できなければ、このアッラーの義務を忠実に遂行することはできない。


1.軍隊

  あなたの眼で、神とその使徒とイマームのために最も誠実な人を、軍の中から司令官に任じなさい。清純な心の持主で、最も知性があり、すぐには立腹せず、許しがあれば安堵する人。弱者にはやさしく強者には厳しく、厳格さに駆られることなく、自分の無能にしり込みしない人。

それから崇高な子孫の人々、敬虔な一族の人々、優れた先人、それから勇敢で寛大な人々にしっかりとつかまっていなさい。彼らは高潔さに包まれ、尊敬に取り囲まれた人々なのだから。親が子供を気にかけるように兵士の諸事を調べなさい。何かで彼らを強化させたなら、そのことで苦悩してはならない。些細なことでも彼らへの思いやりをないがしろにするな。そうすれば、彼らはあなたを信頼して誠実に助言を求めてくるだろう。彼らの諸事を調査する際には、重大なことだけでなく、小さなことも軽視するな。わずかな親切が彼らの益となることもあれば、大きなことでなければならない場合もあるのだ。

軍隊長の中でも特に兵士を助ける者に目をかけなさい。そして兵士を戦場に送った場合は、兵士と残された家族の両者が満足できるように与えなさい。次に、戦場での兵士の敵に関する懸念は共通の関心事となる。兵士に対して思いやる気持ちがあれば、彼らもあなたに心を開く。誠に統治者の眼に最も喜ばしいのは、その領土における公正の確立と、人民の統治者への情愛の現れである。だが、それには彼らの心が健全でなければならない。そして、彼らが支配者を見守ることができ、政府には重荷がほとんどないことを知っており、その統治者の時代が早く終るのを望まなくならない限りは彼らが汚点のない誠実な心で統治者を愛することはできない。従って、彼らの希望を広げてやり、心から彼らを褒め、一人ひとりの功績を認めてやりなさい。彼らの善行を頻繁に言及することで、勇気を鼓舞し、怠惰から目覚めさせることができる。神の御意思があれば。

一人ひとりの成し遂げたことはその人の功績として認めてやりなさい。ある人の功績を別の人のそれとしてはならない。その人の成果には最大限の評価を与えよ。地位が高いからといって小さな成果を偉大なものとみなしたり、身分が低いからといって大きな功績を小さくみなしてはならない。

不明瞭なことや悩むことがあれば、神とその使徒に委ねよ。至大至高の神は御好みの者を導かれるのだと仰せになった。

「あなたがた信仰する者よ、アッラーに従いなさい。また使徒とあなたがたの中の権能をもつ者に従え。あなたがたは何事についても異論があれば、アッラーと終末の日を信じるのなら、これをアッラーと使徒に委ねなさい」(4章59節)

神に委ねるというのは、神の書の明確な言葉に従うことである。そして神の使徒に委ねるとは、彼の一致したスンナに従うことをいい、不一致のスンナに従うことではない。



2.裁判長

人民の間の争いを解決するためには、あなたの眼で最も優れた配下の中から裁判官を選びなさい。すなわち、複雑な問題に悩まされない人、訴訟当事者の短気に影響されない人、過ちを犯し続けない人、事実を認識した時は悩まず事実に戻る人、心がいかなる欲にも飛びつくことのない人、物事を理解できないときは満足せずに徹底して理解に努める人、あいまいなこと(難解なこと)に遭遇した際は早まった行動をしない人、議論に極めて忠実な人、訴訟当事者の訴えに不快を示さない人、事実が明らかになるまで慎重を期する人、判決には揺るぎない人、必要以上に称讃されてもうぬぼれない人、誘惑に駆られない人。だが、このような人物は稀である。

裁判官の法の執行は頻繁に詳細を調査し、裁判官の欠落がなくなり他者に頼らずにすむように、惜しみなく与えよ。寵臣がその地位を切望しないように裁判官の地位をあなたの近くに置きなさい。そうすれば重要な地位に就く者による(裁判官への)人格攻撃を防ぐことができよう。この教え(イスラーム)は、信仰を気まぐれに扱い、現世の享楽を求める、邪悪な者の手に囚われてしまった。裁判官は慎重に選びなさい。



3.役人

役人の諸事を調査しなさい。よく試した上で任命し、えこひいきや駆け引きで任命してはならぬ。この二つには異なる類の抑圧と欺瞞行為が含まれるからである。経験を積んだ謙虚な人を、イスラーム信仰に敬虔な一族(イスラームに最初に帰依した人々)の中から選びなさい。彼らは道徳心に優れ、真の威厳が備わり、野望に燃えた計画には無関心で、洞察力をもって物事の結果を理解する。

選ばれた役人には糧を十分に支給してやりなさい。そうすれば自身の行いを正しくさせる自信となり、彼らの権限にあるものを破滅させたりしない。あなたの指令に背いたり、信頼を裏切ったりしたときには、それが彼らに対しての理由になる。次に、彼らの行動を調べなさい。誠実な監視を派遣しなさい。密かな調査は期待された信頼を裏切らずに行動させ、配下に対して親切な行動を促す。補佐には用心せよ。一人でも邪悪に手を染めた者がいて、監視が同じ諜報を受け取り、あなたが証拠としてそれに満足するなら、その者を捕らえて体罰を加え、乱用したものを取り戻しなさい。そして左遷し、不信行為の烙印を押し、罪の恥で囲みなさい。



4.税収入の管理

納税者の是正となるように地税(ハラージュ)の状況を調査しなさい。地税と納税者の福利が正確であれば他の人々の福利となる。人々は誰もが地税とその納税者に依拠するので、他者の福利はそれを通じてのみ実現される。税徴収を気遣う以上に、大地の繁栄に心を配りなさい。どんなに地税が正確であっても繁栄がなければ、土地を荒廃させ、神の僕を破滅させてしまう。諸事が正常な状態であり続けても束の間である。

人民が地税の重荷を訴えたり、(植物が)枯れたり、灌漑の水が妨げられたり、雨水が不足したり、洪水で土地が水浸しになったり、干ばつで破壊されたりして苦情を訴えた場合、是正できる範囲で彼らの重荷を軽くしてやりなさい。重荷を軽くしてやったために、あなたへの負担を重くさせることがないよう気をつけなさい。それは、領土に繁栄をもたらし、あなたの統治を美しくさせることで彼らがあなたに返還する貯蔵所なのだから。あなたは彼らに正しく称賛されよう。彼らに公正を広めたことに誇りをもつことができる。重荷を和らげてやったときに彼らにしまっておいたことが(彼らに貯蔵しておいたことが)、彼らの力を強め、あなたはそれに依存できる。また、彼らに親切にすることで、あなたの公正さに慣れ、あなたを信頼するようになる。そうすれば、後に何か起きてあなたが彼らに頼らなければならない場合、彼らは喜んで応じるだろう。あなたの負担は繁栄を支える。誠に、土地を破壊させる唯一の原因は、住民の極貧にある。住民が貧窮するのは、支配者が富の蓄えに関心をもつとき、(退位または交代を恐れて)地位存続に疑念を抱くとき、そして警告となる例を役立てないときのみである。



5.高官

次に高官の状況を調査しなさい。あなたの諸事には最良の人を担当させよ。戦略と機密を記した書簡の担当者は、品行方正で、地位が高くても無謀でない人を任じなさい。大胆にも集会の場であってもあなたに反対するかもしれないからだ。怠慢により統治に関わる書簡を損なうことなく、また適切な返答ができ、あなたの代理がきちんと務まるような人でなければならない。あなたに代わって結んだ契約を弱めることがなく、諸事においては自己評価に無頓着でない人を選びなさい。自分の価値を知らぬ者は他者の価値にも無知である。

忠義に欠けて誠実に助言をしないような者でも支配者にはよく仕えているように偽ってみせるものなので、確信や評価が良いからと自己判断に任せて選ぶべきではない。むしろ、あなたの眼で敬虔な人間から信頼された人かどうかを調べなさい。民衆に公正な印象を与え、信頼できる人物として黙認されている人に依存せよ。あなたの神に対しての、また、あなたにすべてを任せた人に対しての、誠実さの証となる。

あなたの仕事にはそれぞれ担当の大臣を任命しなさい。懸念事項が深刻でも圧倒されず、問題が多く発生しても動揺しない人を選びなさい。欠点を見過ごせば、あなたの責任となる。



6.商人と職人

商人と職人には、定住する者(店主)、商品と移動する者(貿易商)、自分の体で(労働して)利益を得る者があるが、これらはあなた自身の関心事とし、他の者にもそのように忠告しなさい。というのも、商人と職人は利益の基盤であり、文明の利器を得る手段だからである。陸、海、草原、山の遠隔地、過疎地、人々の行きたがらない場所からそれらを運んでくる。商人と職人は穏やかな存在であるから、災難を恐れたり、崩壊を案じたりする必要はない。

あなたの居るところと領土の隅々での彼らの仕事を調べよ。ところで、彼らの多くは恥知らずで、極めて貪欲で、利益を囲い、勝手気ままに売る。これはすべての損失の源であり、支配者にとっての汚点である。従って、買占め(イフティカール)は神の使徒―彼とその家族に神の祝福と平安あれ―が禁じていたことなので、これを禁じるように。公正な秤で物惜しみなく売らせるようにして、売り手と買い手の両者に損害が及ばぬよう価格を設定させなさい。禁じた後で買占めようとする者は処罰して戒めよ。だが、やりすぎてはいけない。



7.下層市民

最下位に置かれた貧窮者と身体の不自由な身障者に関しては神を畏れよ。貧窮者には物乞いする者と物乞いしない者とがいる。彼らの権利については神のために注意するように。あなたは神に託された。公庫の一部を彼らに当てなさい。また、各町のイスラーム領土の生産物で戦利品とされたものを配分しなさい。一番遠くにいる人は一番近くの人と同じだけ与えられる。あなたにはその一人ひとりの権利を守る義務がある。だから、彼らに対して傲慢になるな。重要な仕事があるからといって彼らを取るに足らない存在とみなせば、あなたは赦されない。彼らに対する配慮を軽視してはならない。重大な仕事のために彼らを軽視すれば、あなたは罪から免れられない。貧窮者への気遣いを避けるな。軽蔑して顔をそむけてはならない。

あなたと接する機会のない、最下位の、軽蔑の眼差しを向けられる人々の諸事を調査しなさい。神を畏怖する謙虚な人々の中から担当者を選んで従事させなさい。あなたが神と面会する日に許されるような振る舞いで彼らに接しなさい。配下の中では他の誰よりも公正を要する人々である。一人ひとりに対して当然払われるべき敬意を示し、神に対して正当であれ。

身体の不自由な老人および孤児をよく守り、彼らに物乞いをさせてはならない。このすべては役人にとっての重大な責任である。真実のすべては重荷である。だが、最後まで魂の忍耐を戒め、神が約束した真実を信じる人の重荷は、神によって軽減されるであろう。あなたに面会を求める人々のために時間を確保しておきなさい。意見を聞く機会を保ち、その際にはあなたの創造主にかけて謙虚であれ。(恐怖で)どもりながら発言しなくてすむように、兵士、護衛、警備をその場から遠ざけよ。神の使徒−彼とその家族に神の祝福と平安あれ−が一度以上こう言われたのを聞いた。「弱者が強者に(恐怖で緊張して)どもらなければ弱者の当然の権利(尊敬されること)が得られないような共同体は純正であることはできない」あなたの上に神は慈悲の翼を広げて、服従するあなたに報酬を約束されるのだから、粗野でたどたどしく話しても、苛立ったり怒ったりしてはならない。良い作法(態度)で与えるものを与え、要求を却下せねばならない場合は、礼儀正しく、潔くあれ。

あなたの仕事の中にはあなた自身が着手しなければならないことがある。高官が正しい解決法を見つけ出すことができない場合と、補佐が困窮してあなたに依頼する場合は、役人に耳を貸しなさい。日々、その日の仕事を遂行しなさい。その日の仕事はその日に適するもの(その日に特有のもの)である。あなたの意図が正しく、人民が安心できるなら、すべての時間は神に属するのであるが、そのうちの最良の時間を完全に神とあなたの間に確保しておきなさい。



アッラーとの一体化


忠実に信仰するには、特に信仰の義務を実践せよ。それは神にのみ帰属するものである。だから、あなたの身体を夜も昼も神に捧げなさい。あなたを神に近づけることにおいては、欠陥のない完璧な作法で完了させなさい。(結果として)あなたの身の上に何が降りかかろうとも。義務の礼拝で人々を先導するときは、長すぎて彼らを追い払ってしまうことがないように。また、急ぎすぎて祈りを損なわないようにしなさい。人々の中には不健全な者も困窮した者もいるのだから。わたしはイエメンに派遣された時、神の使徒−彼とその家族に神の祝福と平安あれ−に「どのように礼拝を先導すべきですか?」と尋ねたことがあった。神の使徒の返答はこうであった。「彼らの中で一番弱い人が礼拝するように。信ずる者には安堵を与えるように」



統治者の行為


長期にわたって人民から自身を隔離しないようにせよ。それは一種の制御なので、(結果として)物事を熟知できなくなる。隔離された間は認識できなくなる。そうすると重大なことが何でもないことにみえたり、なんでもないことが重大にみえたりする。また美しきことが醜悪にみえたり、醜悪が美しきことにみえたりする。そして真実は過ちで汚される。統治者は人間にすぎない。人々が統治者に隠していることを知ることはできない。

本当のこと(真実)には、過ちと区別するための印はついていない。あなたは二種類の人間のどちらかである。真実に従って寛大に与える人であるなら、正当な義務の実践すなわち気高い行為の実践から自分を引き離すことがあろうか? それとも、あなたは物惜しみに苛む人か? そうであれば、絶望してあなたの寛大さにすがろうとしてやって来た人々はすぐに控えるだろう。人々が求めることのほとんどは、不正行為の不満や、取引においての公正を求めるといったことであり、あなたに重荷となるようなことではない。

さらには、統治者にはひいきや親密な友がある。彼らは越権行為、違反行為、取引で公正さに欠くことがある。このような要素を取り除くために、そういった状況を引き起こす手段を断ち切りなさい。側近や縁者に領地を与えたり、不動産を欲しがらせたりしないように。そうしないと水の供給や共同事業で土地の住民に損失を招くことになり、重荷を背負わせることになる。益を得るのはあなたではなく不動産や領地を得た者たちであり、過ちの責任は現世と来世のあなたの上に降りかかる。

縁者かどうかに関係なく、当然の権利はそれが定められている人に与えるように。縁者やひいきの者に影響しても、このことでは忍耐強くあれ。そして来世の報酬を期待しなさい。それ(権利をその定められた人に与える行為)においては最終目的を望みなさい。あなたの上に重くのしかかる。その結果は称賛される。

配下の誰かがあなたに不正あるいは不法行為を疑う場合、正当な理由を説明してやれ。そうすることで疑惑は晴れる。これによってあなたは自分の魂を特訓しているのである。親切に振る舞い、あなたが必要とすることを得られるように自身を証明せよ。すなわち、疑惑のあったことは真実の道に従わせなさい。

敵が和平を求めてきたときは絶対に拒んではならない。それは神の御悦びである。和平はあなたの兵士を楽にさせ、心労を和らげ、領土の保全となる。だが、敵と和平を結んだ後は、極めて慎重になれ。敵はあなたの不注意につけこんで接近してくるかもしれない。用心深く賢明になれ。このことに関しては敵を完全に信頼するな。敵との和平協定または保護契約が結ばれた場合、誠意を持って忠実に、合意を守りなさい。承諾したことには盾で自身を守れ。(裏切り行為はするな)人は宗派の分裂や見解の相違があろうとも、アッラーに課された義務よりも、忠誠を誓って約束したことでしっかり結束するものだから。偶像崇拝者は協定を裏切った場合の悪の結果を理解していたので、ムスリムの前に協定に従った。絶対に保護契約を裏切ったり、合意を破ったり、敵を騙したりしてはならぬ。アッラーの前で無謀な者は、あさましく愚かな者以外にはいないのである。アッラーは契約を結ばれた。かれの保護契約は、御慈悲によって僕の間に広めた安全であり、難攻不落の、傍にいれば繁栄する聖域なのである。聖域の内側には腐敗、不実、偽りはない。

契約を確認および完成させた後、欠如や不足を許したり、あいまいな表現に頼ったりするな。(欠如や曖昧な表現を理由にして契約を破ってはならない)アッラーに誓って結ばれた契約には困難が伴うが、不正に破棄してはならない。困難でも忍耐し、解決を望むこと、そしてそれがもたらす恩恵は、裏切り行為より優る。あなたは行為がもたらす結果を恐れるだろう。そして、現世でも来世でもその責任から逃れることはできない。あなたにはアッラーに対する義務がある。

禁じられた流血に用心しなさい。不法な流血ほど神の天罰に値するものはない。それが引き起こす結果は何よりも深刻である。すなわち、祝福は停止され、寿命は断たれる。復活の日、栄光のアッラーはまず、僕たちの流した不法の血について判定なさる。絶対に不法の流血で支配を強化させることがあってはならない。統治を衰弱させ、必ず、崩壊と交代を招く。アッラーに対してもわたしに対しても、故意の殺害にあなたは何の言い訳もできない。意図的な殺害には身体的な報復がある。処罰を施すのに殴るなどして鞭と剣と手が限度を超えたために殺してしまい、過失に苛まされるときは、権力者の傲りで被害者の家族への正しい償いを怠ることがあってはならない。

自己満足には注意せよ。自分自身に満悦し、また必要以上の称讃を愛するのは、悪魔にとっては善行を取り消す格好の機会である。

あなたが人民に善行を施して(彼らの恩義が不十分で)非難したり、自分の行為を誇張したり、彼らに約束したことを守らないことがないように気をつけなさい。非難は善行を無効にする。誇張(善行を見せびらかす)は真実の光を消す。約束したことに従わない者はアッラーと人々から嫌われる。アッラーに称賛あれ。かれはこう仰せになった。

「あなたがたが行わないことを口にするのは、アッラーが最も憎まれるところである」 (61章3節)

物事には適切な期間があるので性急に解決させようとしてはならない。実行可能なことを放置(軽視)したり、実行不可能(非現実的)なことに固執したり、明瞭なことに不十分であったりすることには気を付けよ。何事も整え、どんな行いもその時になされよ。

越権行為に注意しなさい。人間は平等である。人々に一目瞭然である懸念事項を軽視しないように。軽視すれば他の者の益にはなってもあなたにとって不利になる。(あなたが非難される)あなたの諸行の覆いが取り除かれるまでわずかしかない。あなたは不当な扱いをうけた人への公正を求められるという事実を忘れてはならない。あなた自身の誇り(うぬぼれ)が情熱的にならないように、あなたの力を乱暴に使うことがないように、あなたの手が武力に染まらないように、舌が鋭くなりすぎないように制御せよ。衝動を抑えて、怒りがおさまるまで武力行為に走らぬよう自身に用心しなさい。これができれば、あなたは選択する力を身につけたのである。だが、あなたが主の御許に帰ることを忘れないよう意識が高められるまでは、魂を制御できるようにはならない。

あなたの義務は、初期時代の先人の、公正な政府、優れた習慣、預言者−彼とその家族に神の祝福と平安あれ−のスンナ、神の書の(広めた)義務を呼び戻すことである。あなたが見てきた我々の実践を模範として行動されよ。わたしが教示したことに全力で励みなさい。あなたの魂が気紛れに急ぐことのないように、これらをあなたに対する証拠とする。

 我々の行為が正当である明瞭な理由をアッラーとその被造物に示すことで、かれの御悦びを得ることができる。アッラーの深い御慈悲と偉大なる力であらゆる望みの恩恵を授かるように、あなたとわが身のために祈る。領土に公正な権力を授け、神の僕に多大の祝福と称賛がありますように。アッラーがわたしとあなたの生命を至福と殉教で封印されますように。「本当にわたしたちは、アッラーのもの。かれの御許にわたしたちは帰ります」 (2章156節) 神の使徒に平安あれ。彼とその純化された善なる家族の上に神の祝福あれ。この件に関しては以上である。




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